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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)3166号 判決 1976年11月29日

控訴人(付帯被控訴人)

本門寺

(宗教法人)

右代表者代表役員

吉田義誠

右訴訟代理人弁護士

松井一彦

外三名

被控訴人(付帯控訴人)

森本正明

右訴訟代理人弁護士

島田武夫

外二名

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  付帯控訴につき、被控訴人(付帯控訴人)の当審における追加請求を棄却する。

三  控訴費用は控訴人(付帯被控訴人)の負担とし、付帯控訴費用は被控訴人(付帯控訴人)の負担とする。

事実

第一  当事者の申立

控訴人(付帯被控訴人。以下単に控訴人という。)は、控訴につき、「原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の訴を却下する。(訴却下が認められないときは)被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、付帯控訴にかかる被控訴人の追加請求につき、請求棄却の判決を求めた。

被控訴人(付帯控訴人。以下単に被控訴人という。)は、控訴につき、控訴棄却の判決を求め、付帯控訴として請求を追加し、

「控訴人は被控訴人に対し、吉田義誠が昭和四〇年四月二七日控訴人寺院の代表役員に就任した旨の変更登記につき、就任無効による抹消登記手続をせよ。訴訟費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、以下に付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりである。

(控訴人の主張)

一、本案前の抗弁

(一) 本件請求は、司法審査の対象とならないものであり、裁判所がこれにつき判断することは、信教の自由を定める憲法第二〇条に違反し、許されない。

すなわち、寺院の代表役員の地位自体は法律上の地位であるが、本件のように、寺院規則で代表役員には住職をもつて充てる旨定められている場合には、代表役員の地位についての紛争は、住職の地位についての紛争をその前提とし、裁判所は後者につき判断しなければならない。ところが、住職選任に関する手続が寺院規則や明確な慣習によつて明らかである場合はともかく、本件のようにそうでない場合は、必然的に宗教上の信仰、教義、慣習等につき解釈、判断を加えなければ、住職の選任の効力を確定することはできない。とすれば、裁判所は、右の判断をすることによつて、宗教論争に介入し、ひいて特定の宗派に国家として特権を与えることになる。これは憲法第二〇条によつて禁ぜられるところである。

(二) 控訴人を被告とする、被控訴人が控訴人寺院の代表役員(兼責任役員)たる地位の確認の請求は、訴の利益がなく、不適法として却下を免れない。

すなわち、法人の代表者は、みずから代表者としてふるまい、その権限を行使すればよく、法人自体によりその地位を妨害されることはあり得ない。何者かによりその地位が争われるときは、その者を相手方として妨害排除を請求すれば足りる。また、本件において、吉田義誠が控訴人寺院の代表役員(定員一名)として登記されていることが被控訴人主張の地位の障害となるとすれば、まず吉田および控訴人を共同被告として、吉田の代表役員の地位の不存在確認を請求し、その勝訴判決の確定により右登記を抹消すべきであり、かつこれによつてのみ右登記を抹消しうるものであることは、後記のとおりである(なお、被控訴人は、原審で右地位不存在確認を請求していたが、原審がこれを却下したのに対し、控訴していない。この請求につき、控訴人が従前主張した本案前の抗弁(原判決事実第二の一(一))は、当審における前記主張に反するので、これを撤回する。)。したがつて、単に本件積極的確認のみを求めるのは、その利益がない。

二、本案の主張

(一) 仮りに控訴人寺院の住職が条理により選任されるべきであるとしても、寺院の目的が布教伝道、儀式の執行、壇信徒の教化育成にあるところからすれば、その条理は、壇信徒の意思に求めるべきでなく(壇信徒の本質については、原判決事実第二の二(三)1主張参照)、前任住職の意思にこれを求めるべきである。また、控訴人寺院においては、包括宗派(本門宗、日蓮宗)に属していた時代には、住職任免権は宗派の管長にあつたが、昭和三二年単立以後は、管長の地位は控訴人の住職の地位と一致することになつたと解すべきである。以上のところからみて、控訴人の前住職由比日光が吉田義誠を大学頭に任命するところにより、同人を後任住職とする意思が明らかに表示されている以上、日光死亡後は吉田が後任住職となつたと解すべきである。

(二) 仮りに後任住職が壇信徒総会の決議により選任されるべきであるとしても、被控訴人主張の壇信徒総会は、議決権者である壇信徒の範囲の不明確、招集者の無権限、招集通知が一部反対派の壇信徒に対してはなされていないこと、決議方法の不備など、幾多の瑕疵が存在し、とうていその決議を有効と認めることはできない。

(三) 登記抹消の請求(付帯控訴)について。

被控訴人主張事実中、その主張の登記がなされていることは認めるが、その余は否認する。

被控訴人が控訴人に対し、吉田義誠についての代表役員の登記の抹消を求める法令上の根拠はなく、被控訴人と控訴人は登記権利者、義務者の関係はない。右登記の抹消は、吉田と控訴人を共同被告とする吉田の代表役員の地位不存在確認訴訟により被控訴人勝訴の確定判決を得て、被控訴人自身が代表者としてこれをすることができ、かつこれによつてのみ抹消されるべきである。

(被控訴人の主張)

一、控訴人の本案前の抗弁(一)(二)は、いずれも争う。

二、(一) 控訴人の本案の主張(一)について。壇信徒は寺院の構成要素であつて、寺院存立の基礎をなすものと解すべきであり、一方、住職の選任は寺院の維持、管理に関する寺務で、信仰の分野における帰依の関係ではないから、条理により住職が選任される場合、壇信徒の総意こそ最も重視されるべきであつて、その総意の反映のためには、壇信徒総会の決議によるのが最も有効適切である。また、控訴人寺院の歴史的な関係に基づく塔中(塔頭)、末寺の住職の意向を尊重することも、右条理に合する。

(二) 同(二)の主張は否認する。被控訴人主張の壇信徒総会に控訴人主張のような瑕疵はない。

なお、原判決三丁目裏二行目の「壇信徒総数四一一名中二八六名(委任状による出席一七二名)」を「壇信徒総数四〇八名中二八〇名(委任状による出席一六六名)」と改める。

(三) 原判決四丁裏一二行目の「明治一八年」を「明治三二年」と改める。

三、付帯控訴による追加請求の原因。

従前主張のとおり、被控訴人は控訴人寺院の正当な代表役員であるのに、昭和四一年七月一六日受付をもつて、昭和四〇年四月二七日吉田義誠が控訴人の代表役員に就任した旨の登記がなされている。よつて、被控訴人は控訴人に対し、右登記の抹消登記手続を求める。

なお、地位確認請求の確定判決により右登記の抹消が可能とも考えられるが、主文をもつて抹消登記義務が明らかにされることが望ましく、かつ有益である。

理由

第一本案前の抗弁について。

一控訴人は、本件請求は司法審査の対象にならないと主張する(抗弁(一))。

控訴人の寺院規則において、住職の職にある者を代表役員に充てる旨定められていることは当事者間に争いがないから、本件を判断するには、被控訴人が控訴人の住職に選任されたかどうかの事実認定を前提とすることは当然である。ところで、住職自体は宗教上の地位であるから、右の認定には、宗教的な要素も、ある程度関係がありうるが、裁判所は、宗教上の教義の内面にわたる解釈、判断は別として(これは元来、法的判断の対象外である。)、それ以外の客観的な事実関係については、宗教的色彩のものであつても、必要があれば認定することができ、またその職責を有するものである。特に住職の地位の紛争ごときは、その選任権や手続の問題が主であり、教義上誰が住職としてふさわしいかという問題とは異なるのであるから、選任に関する慣習、伝統、条理等につき裁判所が認定判断しうることは、むしろ当然であり、これをしたからといつて宗教自体に介入することにはならない。控訴人の主張は、宗教法人の代表権や財産関係等法的な面について、裁判所による公権的判断ができない場合を認めることになり、とうてい採用できない。

二次に控訴人は、本件地位確認の請求は訴の利益がないと主張する(抗弁(二))。

しかし、宗教法人の代表役員兼任責任役員は、その地位が争われている場合は、その地位の積極的確認の訴訟を提起する利益があることは一般の確認訴訟におけると同様であり、この場合、当該宗教法人を相手方としてしなければならない(昭和四四年七月一〇日最高裁判決、民集二三巻八号一四二三頁)。そして右訴訟の判決は対世的効力を有すると解されるから(右判決理由参照)、控訴人主張のように、現に代表役員として登記されている者をも相手方とし、その者の地位不存在確認の請求をしなければならないものではなく、かえつて、本件のように代表役員の定数が法律上一名である場合(宗教法人法第一八条第一項)は、後者の請求がその利益を欠く(原判決理由第一の一のとおり)。なお、控訴人は、右消極的確認訴訟によらなければ現に代表役員として登記されている者(本件では吉田義誠)の登記抹消ができない旨主張するが、前記のように積極的確認訴訟の判決が対世的効力を有することからすれば、右主張は理由がない(なお登記抹消の点については、付帯控訴において、後に判断する。)。

以上のとおり、本件被控訴人の代表役員兼責任役員の地位確認請求は、法律上の利益があるというべきである。(なお、控訴人は、原審においては右消極的確認請求はその利益がないと主張していたのであり、それが採用されて右訴が却下されるや、当審で全く逆の主張をするもので、信義に反する主張といわなければならない。

第二被控訴人の代表役員兼責任役員の地位確認請求について。

右請求についての当裁判所の認定判断は、以下に訂正、付加するほか、原判決理由第二の冒頭から第二の四の七行目の「認容し」(原判決一二丁表八行目ないし一九丁裏八行目)までと同一であるから、これを引用する。

一原判決一三丁表三行目と四行目の間に、次の一項を挿入する。

「控訴人寺院は、古く一四世紀に僧日代によつて創建され、日蓮宗に属していたが、明治七年日蓮宗は「勝劣派」、「一致派」に分裂したこと、控訴人は大石寺とともに前者に属したが、「勝劣派」は明治九年日蓮宗興門派、次いで明治三二年本門宗となり、右「一致派」はのちに日蓮宗身延派(総本山久遠寺)となり、両者は別の宗派を形成したこと、明治三三年に本門宗から大石寺が分離して日蓮正宗を称したこと、そして昭和一六年に戦時の行政的要請もあつて、本門宗は日蓮宗身延派と合同し、控訴人は再び日蓮宗に包括されたこと、右合同の際にも日蓮正宗はこれに加わらなかつたこと、昭和三二年三月五日控訴人は日蓮宗から離脱して単立の寺院となつたこと、以上の経過事実は大筋において当事者間に争いないところである。」

二原判決一三丁裏一一行目の「第一〇号証の二」の次に「、成立に争いのない甲第一一〇号証ないし第一一四号証(枝番号省略)、第一二四号証ないし第一二九号証(枝番号省略)、乙第六二号証ないし第六六号証(枝番号省略)、第七二、第七三号証」を加え、同一二行目の「同山口日青」の次に「(原審および当審第一、二回、以下同じ。)、同上杉諦礼」を加え、同行目の「原告本人尋問」の次に「(原審および当審第一、二回、以下同じ。)ならびに弁論の全趣旨」を加える。

三原判決一三丁裏末行の「第四」から同一四丁裏二行目の「由比日光」までを次のように改める。

「第四五代森田日源(明治二五年頃から同四二年まで在職)、第四六代吉山日明(明治四二年末寺の伊藤光栄寺より控訴人寺院住職となり大正一二年まで在職)、第四七代寿日相(大正一二年末寺の千葉福正寺より同じく住職となり同一四年まで在職)、第四八代石井日省(智明。大正一四年末寺の伊豆上行院より同じく住職となり昭和一三年まで在職)、第四九代由比日光(昭和一三年前記福正寺より同じく住職となり同四〇年四月二三日死亡まで在職)」

四原判決一四丁表一一行目の「遵守していること、」の次に次のとおり加える。

「前記のように控訴人寺院の包括派関係の変遷に伴い、本山ないし別格山(控訴人は本山に含まれ、昭和一六年合同により別格山となる。)の住職の選定方法には幾多の変遷があつて必ずしも帰一していないが、興門派、本門宗、日蓮宗の各宗制宗規、控訴人寺院の山規により、おおむね本山、門末寺院の僧侶、壇徒総代等の選挙により選定し、宗派の管長がこれを承認、任命することになつていたこと、大学頭の選任についてもおおむね住職選定の方法に準じて選挙により選定し、控訴人寺院の住職が任命することになつていたこと、明治の一時期に大学頭が後任住職となる定めであつたこともあるが、その後この定めはなくなつていること、昭和一六年日蓮宗に合同後は大学頭の制度はないこと、」

五原判決一五丁表一一行目の「(第二回)」を削り、同行目の「望月菊市」の次に「、同望月兵庫」を加える。

六原判決一五丁裏二行目から三行目にかけての「昭和四〇年五月一六日」を「昭和四一年九月一八日」と改める。

七原判決一五丁裏一二行目の「職務代行者四名」の次に「(昭和三七年頃から、由比日光が日蓮正宗に控訴人寺院を包括させようとの意図をもつたことに端を発して控訴人寺院および塔中、末寺の僧侶、壇信徒の間に対立抗争を生じ、昭和三八年九月日光の派による責任役員入れ替え事件が起こつたため、反対派壇徒大内稔らが右の決議無効を理由として新責任役員四名の職務執行停止と職務代行者選任の仮処分を申請し、昭和三八年一〇月二一日認容された。)」と加える。

八原判決一六丁表九行目の「四一一名の三分の二以上である二八六名」を「少くとも四〇八名の三分の二以上である少くとも二八〇名」と改め、同一〇行目の「出席して」の次に「拍手による満場一致をもつて」と改める。

九原判決一六丁裏一二行目と一三行目の間に次の一項を挿入する。

「一方、控訴人寺院において、住職が後任住職をその単独の意思で選定することになつていた時期は一度もないことは、前記のとおりである。もつとも壇信徒総会がこれを選定しえた時期もまた存しないが(壇徒総代が選定に加わるのは別として)、本件のように壇信徒および末寺(塔中を含む。以下同じ)の大方の意向が現住職に反対の立場であるような場合、これを無視して住職の意思を尊重するよりも、壇信徒、末寺の意向によるとするのが、従来の伝統にも沿い、より妥当というべきである(壇信徒総会については、次項でなお判示する。)。なお、議決機関たる責任役員は前記のように職務執行停止中であつた。」

一〇原判決一七丁裏九行目の「いかない。」の次に「ただ、壇信徒が大都市などでは次第に形骸化していることは公知であり、宗教関係法もそれに伴つて改正されていると考えられるが、その現象を一般化することはできず、本件弁論の全趣旨によれば、控訴人寺院は歴史の古い本山であり、その所在も富士山麓の信仰に縁の深い、小さい町にあつて、その壇信徒には熱心な帰依者も多く、また一般に祖先の祭祀にも手厚いことがうかがわれる。」と加える。

一一原判決一八丁表一行目の「望月長治」の次に「大内文夫、望月正(第一、二回)」を加え、同二行目の「吉田本人尋問」の次に「(原審および当審)」を加え、同七行目の「右壇信徒は」の次に「塔中寺院の壇信徒であるとともに」を加える。

一二原判決一九丁裏一行目と二行目の間に次の一項を挿入する。

「4 控訴人は、そのほか右壇信徒総会には幾多の瑕疵が存する旨主張する。本件証拠および弁論の全趣旨によれば、由比日光死亡後、その後任をめぐつて、従来の粉争がさらに激化した時点で、壇信徒がやむをえない手段として急遽本件総会を開いたものであつて、元来その根拠規定もないところから、右総会は万全の手続を踏んだともいいがたく、壇信徒の範囲についても若干問題点がうかがわれないではないけれども、さりとて控訴人指摘のように決議の瑕疵としてこれを無効とするほど決定的なものが認められるわけでもなく、条理に基づくものとしては、一応の順序と手続を経たといいうるものであり、壇信徒および末寺の意向をおおむね把握したものと認められる。これを法的規律が完備した会社等の決議と同断に論ずることはできない。」

一三原判決一九丁裏四行目の「いうべく、」の次に「一方、吉田義誠は、前記のように由比日光から大学頭(および副住職)に任命されたことから、慣習により日光死亡後当然住職の地位に就任したと主張しているものであつて、右慣習は認められず、他に何者かにより住職に選任された事実はないのであり(壇信徒の一部は吉田を支持していることはうかがわれるが、その数は「直壇」と称する一一〇名位であることが証人大内文夫の証言により認められ、しかも別段総会のようなものは開いていない。)、また日光の意向が吉田を後任住職とするにある(このことは明らかである。)からといつて、これが条理に合するものでないことは前認定のところから明らかで、しかも右吉田の住職就任の主張は、被控訴人側主張の被控訴人およびその前任者たる前記林円寿の住職就任の主張と競合の関係にあつたものである。よつて吉田が住職に就任したとの主張は理由がない。」を加え、同行の「従つて」の次に「被控訴人は」を加える。

第三被控訴人の登記抹消請求(付帯控訴)について。

吉田義誠が昭和四〇年四月二七日に控訴人寺院の代表役員に就任した旨の登記が同四一年七月一六日受付をもつてなされていることは、当事者間に争いがない。そして被控訴人が正当な代表役員である(したがつて吉田義誠は代表役員でない)と認められることは、前記第二のとおりである。そこで被控訴人が控訴人に対し右無効な登記の抹消を法律上請求しうるかどうかについてみるに、右被控訴人の代表役員の地位確認の判決が確定すれば、その対世的効力によつて、被控訴人は控訴人の代表役員として行動することができ、その職務行為としてみずから吉田義誠の登記の抹消登記を申請することができる。したがつて、被控訴人は控訴人に対し右登記抹消請求をする私法上の権利はなく、仮りに権利があると解するとしても、その訴の利益は存しないと解せざるをえない。

よつて右登記抹消請求は、失当である。

第四結論

そうすると、地位確認請求につき右第二記載と同一の判断をした原判決は正当であるから、本件控訴を棄却すべく、また付帯控訴にかかる被控訴人の追加請求は、理由がないから棄却すべきものとし、訴訟費用について民訴法第八九条、第九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(瀬戸正二 小堀勇 小川克介)

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